SCR触媒の性能はなぜ低下するのか?被毒・温度・リークアンモニア
被毒・温度・リークアンモニアの3系統で見る原因の切り分けと点検順序
01 · THREE CAUSES
脱硝触媒はなぜ性能を失うのか?
脱硝触媒は、活性点がふさがれる、覆われる、または失われることで性能を失います。米国EPAの資料は、選択的触媒還元(SCR)触媒の劣化要因として、活性点の被毒、高温による焼結、アンモニア・硫黄系の塩や粒子状物質による閉塞・汚損、速いガス流による摩耗を挙げています。[1]本稿では現場で原因を切り分けやすいよう、これを被毒・物理的劣化、温度、アンモニア・アンモニウム塩の3系統にまとめて解説します。
触媒活性が下がるとNOx除去率は低下し、リークアンモニアは増えます。リークアンモニアが設計値や許容レベルに達すると、新しい触媒を設置する必要があります。[1]そのため原因を早く切り分けるほど、交換時期を遅らせたり部分交換で対応したりする余地が大きくなります。
正常な触媒性能が低下した触媒図1. 正常な触媒モジュール(左)と、チャネルにばいじん・塩が堆積した触媒モジュール(右)の概念比較。実際の外観と堆積の程度は設備ごとに異なります。
出典:AIを活用した概念図
| 区分 | 被毒・物理的劣化 | 温度 | アンモニア・アンモニウム塩 |
|---|---|---|---|
| 主な原因 | ばいじんによる摩耗、チャネル閉塞、アルカリ(K・Na・Ca)・重金属・硫酸塩・塩化物の堆積 | 運転温度が触媒の活性温度域を下回る | 未反応NH₃がSO₃・HClなどと反応してアンモニウム塩が生成 |
| 現れる兆候 | 脱硝率の低下、触媒層差圧の上昇 | 同じ注入量でも脱硝率が低下(起動時・低負荷域で顕著) | 脱硝率の低下とリークアンモニアの増加、後段の差圧上昇・腐食 |
| 回復できるか | アルカリ被毒は洗浄・再生で一部回復。高温焼結は回復が難しい | 温度を戻せば回復する場合が多いが、長く続くと恒久的な劣化につながることがある | 加熱分解または洗浄で除去できる場合が多い |
| 主な対策 | 前段ろ過、耐被毒組成、洗浄・再生 | 運転温度の管理、再加熱、触媒仕様の選定 | 還元剤注入量の制御、温度の維持、後段の洗浄 |
アルカリ被毒は洗浄・再生で一部回復し、焼結は回復が難しいという区分はレビュー論文に従いました。[3]温度とアンモニウム塩の列の根拠は3章と4章で説明します。
原因によります。温度逸脱で生じたアンモニウム塩の堆積や、水溶性のアルカリ・硫酸塩の堆積は、昇温や洗浄で活性が回復する場合があります。一方、焼結や摩耗は元に戻しにくいため、交換を決める前にまず原因を切り分ける必要があります。
02 · POISONING
被毒は何が引き起こし、前段ろ過でどこまで減らせるのか?
被毒とは、ガスやばいじんに含まれるアルカリ・硫黄・塩素・重金属成分が触媒の活性点に付着したり細孔をふさいだりして、反応を妨げる現象です。粒子状の成分は前段ろ過でかなり減らせますが、ガス状の成分はろ過では止めにくいのが実情です。つまり、前段ろ過だけで被毒対策が終わるわけではない点が重要です。
ばいじんに直接さらされるSCRが最初に傷みます
集じん設備の前段にSCRを置く高ダスト(high-dust)配置では、ばいじんが触媒表面を摩耗させ、チャネルをふさいで圧力損失が大きくなります。さらにK・Na・Caなどのアルカリ成分が活性点を被毒し、重金属・硫酸塩・塩化物が堆積すると洗浄・再生が必要になり、交換周期も短くなります。廃棄物焼却の排ガスは、アルカリ金属・アルカリ土類金属を多く含む代表的な例とされています。[3]
アルカリが触媒性能を落とす経路は大きく2つです。1つは触媒の酸点が中和される化学的な劣化、もう1つはアンモニウム塩や灰分が堆積して閉塞・被覆を起こす経路です。バナジウム系触媒ではカリウムの影響が最も大きいことが知られています。[3]SCRを集じん設備の後段に移せばばいじんの負担は減りますが、下がった排ガス温度を再び上げる必要が生じることがあります。[1]
粒子状とガス状では対策が異なります
ろ過式集じん機(バグフィルター)のように、ばいじんを先に除去する設備を触媒の前に置けば、粒子状成分が触媒層に届く量を減らせます。逆にガス状で流れてくる成分は運転温度によって触媒層まで到達するため、触媒組成と温度管理で対応することになります。
| 区分 | 前段ろ過で減らせるもの | ろ過では止めにくいもの |
|---|---|---|
| 代表的な成分 | 飛灰・微細ばいじん、ばいじんに結合したK・Na・Caのアルカリ、粒子状重金属、未反応吸収剤、粒子化した塩(塩化物・硫酸塩)のばいじん | ガス状のSO₂・HCl、水蒸気、ガス状重金属(水銀など)、NH₃、一部の微細な硫酸(SO₃)ミスト ※吸収剤(消石灰など)を併用すれば、ろ過層でSO₂・SO₃・HClもかなり低減できる |
| 触媒への影響 | 触媒層の摩耗、チャネル・細孔の閉塞、ばいじん中のアルカリによる被毒 | 運転温度によって触媒層に到達し、被毒・アンモニウム塩の生成に関与 |
| 主な対策 | 前段ろ過、必要に応じて洗浄 | 耐被毒の触媒組成、運転温度の管理 |
前段ろ過がアルカリをすべて止めてくれるわけではありません。バイオマス燃料設備の研究では、100 nm以下の超微細アルカリ粒子にさらされた時間と触媒劣化が線形関係を示したと報告されています。[3]したがって、ろ過後もアルカリ濃度を管理対象にしておくのが安全です。
03 · TEMPERATURE WINDOW
触媒の活性温度と実際の運転温度がずれるとどうなるのか?
運転温度が触媒の活性温度より低いと、反応が遅くなるだけでなく、硫酸水素アンモニウム(ABS)が凝縮して触媒の細孔をふさぐため、脱硝率はさらに下がります。硫酸水素アンモニウムは、排ガス中のSO₃と水分、NH₃が反応して生じる塩です。[2]
最適温度は触媒の種類と排ガス組成によって変わり、EPAの資料はSCRの最適温度を約250~427℃と紹介しています。[1]一方、廃棄物焼却炉のバグフィルター出口の排ガス温度は通常120~180℃程度で、汎用のバナジウム系触媒は一般に200℃以上で使われます。酸性ガスを先に除去する後段(テールエンド)配置でも、通常は170~200℃以上に再加熱して運転します。この差を埋める方法は、排ガスを再加熱するか、触媒仕様を低温に合わせるかの2つです。再加熱は運転費を大きく増やすことがあります。[1]
図2. バグフィルター運転温度、触媒の活性温度、ABS露点の位置の比較。各範囲は異なる資料に基づくもので、同一設備の実測値ではありません。ABS露点は、SO₃・NH₃濃度が低い脱硫後段ではこれよりかなり低くなります。触媒の種類と排ガス組成によって変わります。
出典:バグフィルター運転温度は株式会社マイクロワン自社技術資料、触媒使用温度は一般的な文献の範囲、ABS露点は文献報告[2]、最適範囲はEPA[1]
ABSは元に戻せますが、長く放置すると戻らなくなります
文献では硫酸水素アンモニウムの露点は高硫黄排ガス条件で約280~320℃と報告されており、SO₃・NH₃濃度が低い脱硫後段ではこれよりかなり低くなります。廃棄物焼却炉の後段SCRでは、おおむね200℃を下回る領域で析出が主に問題となります。露点を下回るとNH₃と硫酸蒸気が凝縮して触媒表面を覆います。この過程は可逆的で、温度を露点より上に戻せば蒸発して活性が戻ります。しかし運転温度が露点を長く下回ると、活性が恒久的に変化することがあります。[2]そのため低温域で運転する設備では、定期的な再活性化を計画に組み込んでおく必要があります。
04 · AMMONIA SLIP
リークアンモニアはなぜ生じ、何を汚すのか?
リークアンモニア(アンモニアスリップ)とは、注入したアンモニアがNOxと反応しきれず、そのまま排ガスとして抜け出る現象です。主な原因は還元剤の過剰注入と触媒活性の低下です。EPAは、リークアンモニアが下流で硫酸アンモニウムをつくって設備を閉塞・腐食させることがあり、飛灰に吸着されて処分やリサイクルに影響し得ると説明しています。[1]
リークアンモニアは原因であり、結果でもあります
触媒活性が下がるとリークアンモニアが増え、増えたアンモニアはアンモニウム塩をつくって触媒と後段設備を再び汚します。この悪循環を断つには、リークアンモニアを単なる排出値ではなく、触媒の状態を示す指標としてあわせて見る必要があります。NH₃・SO₃・HClが反応して生じるアンモニウム塩は、温度と濃度の条件によって触媒層に堆積することがあります。

図3. SCR反応器の触媒層(左)と拡大した触媒チャネル内部(右)の概念図。アンモニウム塩がチャネル壁に堆積すると、ガスが通る流路が狭くなります。実際の堆積位置と量は設備ごとに異なります。
出典:AIを活用した概念図
脱硝効率を上げようと還元剤を過剰に噴霧すると、薬品費が増え、未反応アンモニアが排出されて後段設備の腐食や二次汚染につながります。SNCRでは還元剤の注入位置と排ガスの温度分布がリークアンモニアを大きく左右するため、ノズル位置と噴霧条件を流動・温度解析で決め、負荷と炉内温度・NOxの変化に合わせて注入位置と注入量を制御する方式が使われます。両方式の原理と選定基準は「SNCRとSCRの違いとは?」で整理しています。
05 · REDUCING DEGRADATION
性能低下を抑えるにはどのような方向性があるのか?
性能低下を抑える方向性は、前段ろ過、耐被毒組成、温度管理、洗浄・再生の4つで、どれが効果的かは被毒の原因と排ガス条件で決まります。
- 前段ろ過:硫黄分とばいじんをあらかじめ減らせば、触媒劣化と下流設備の汚損が減ります。[1]粒子状アルカリとばいじんによる摩耗の負担もあわせて下げられます。
- 耐被毒組成:触媒組成の耐摩耗性・耐被毒性を高め、形状・ピッチ・配列を改良する方向で技術開発が続いています。アルカリ耐性を高める研究としては、酸性の強い担体を使う方法や、バナジウムの代わりに別の金属を適用する方法が報告されています。[3]
- 温度管理:起動・停止時と低負荷時に、触媒層温度がABS露点を下回る時間を短くします。必要なら再加熱するか、触媒仕様を低い温度に合わせます。
- 洗浄・再生:水洗や希硫酸洗浄でアルカリと硫酸塩を除去します。希硫酸洗浄はアルカリを効果的に除去しますが、バナジウムなどの活性成分が一部溶け出し、補充が必要になることがあります。[3]
焼却炉後段のSCRの事例もあります。約18,000時間運転した触媒からアンモニウム・カルシウムの硫酸塩を除去する際、400℃の熱処理より水洗のほうが活性回復に効果的で、バナジウムの溶出も限定的だったという報告です。[3]1つの設備の結果であるため、他の設備に一般化するには、まず触媒と堆積物の分析が必要です。
水洗または希硫酸
図4. チャネルに堆積物がたまった触媒モジュール(左)と、洗浄・再生後に堆積が減った触媒モジュール(右)の概念図。実際の回復の程度は堆積の原因と洗浄方法によって異なり、洗浄後も活性成分が一部減ることがあります。
出典:AIを活用した概念図
まったく別のアプローチもあります。ばいじんを捕集するバグフィルターの中に触媒を置き、集じんと脱硝を1つの設備で処理する触媒フィルターバッグ方式です。別置のSCR反応器を設けずに既設のバグフィルターを活用するため、設置スペースや設備規模が負担になる場合に検討できます。
06 · CHECK ORDER
性能が低下したとき、どのような順序で点検するのか?
点検は、コストが小さく設備を止めずに確認できる項目から、つまり運転データの傾向、温度履歴、差圧、ガス・ばいじん成分、触媒試料の分析の順に進めるのが一般的です。以下は一般的な点検の流れをまとめたもので、設備ごとの設計条件によって変わります。
| 順序 | 確認項目 | このような兆候なら | 疑われる原因 |
|---|---|---|---|
| 1. 運転データ | 入口・出口NOx、還元剤注入量、リークアンモニアの傾向 | 同じ注入量で出口NOxとリークアンモニアがともに上昇 | 触媒活性の低下、またはNH₃/NOx分布の不均一(注入グリッドの点検を含む。原因は次の段階で切り分け) |
| 2. 温度履歴 | 触媒層温度、起動・停止・低負荷の区間 | 設計下限温度を下回っていた時間が長い | ABSなどアンモニウム塩の堆積 |
| 3. 差圧 | 触媒層差圧、後段設備の差圧 | 触媒層差圧の上昇 / 後段差圧の上昇・腐食 | チャネル閉塞・堆積 / リークアンモニアによるアンモニウム塩 |
| 4. 前段の汚染物質 | ばいじん、アルカリ(K・Na・Ca)、SO₂・SO₃・HCl、水分 | アルカリ・酸性ガス濃度が設計条件より高い | 被毒 |
| 5. 触媒試料の分析 | NOx転化率、リークアンモニア、N₂O、差圧、堆積成分 | アルカリ・硫酸塩の検出、活性試験での転化率低下 | 被毒の種類と堆積物の確定 |
| 6. 対策の決定 | 昇温運転、注入分布の調整、洗浄・再生、予備層の追加または部分交換 | 原因と回復の可能性が確認できた | 原因別の対策を選択 |
対策の段階では、全量交換よりも触媒を分けて一部ずつ交換する管理計画が役立ちます。交換と廃棄のコストを寿命期間にわたって平準化できるためです。[1]
FAQ
よくある質問
脱硝触媒の性能が低下したかどうかは、どうすれば分かりますか?
同じ還元剤注入量で出口NOxが上がり、リークアンモニアが増え、触媒層差圧もあわせて変化していれば性能低下を疑います。1つの指標だけでは原因を切り分けにくいため、温度履歴と後段設備の差圧も一緒に確認します。
温度低下で落ちた触媒性能も回復しますか?
はい。原因が硫酸水素アンモニウム(ABS)の堆積であれば、温度を露点より上に上げて分解・蒸発させると活性が戻る場合が多くあります。ただし露点を下回ったまま長く運転すると恒久的な劣化につながることがあるため、早めの対応が重要です。
リークアンモニアが増えたら、触媒の問題と考えるべきですか?
いいえ。リークアンモニアは触媒活性の低下だけでなく、還元剤の過剰注入、噴霧分布の不均一、負荷変動でも増えます。まず注入量の制御と噴霧条件を確認し、それでも増える場合に触媒の状態を点検します。
洗浄・再生か交換かは、どう判断しますか?
触媒試料の活性試験と堆積成分の分析結果で判断します。アルカリ・硫酸塩の堆積は洗浄で回復する場合がありますが、焼結と摩耗は元に戻しにくく、酸洗浄では活性成分が一部溶出することがあります。
前段でばいじんを除去すれば、触媒の劣化もすべて防げますか?
いいえ。粒子状成分はかなり減らせますが、ガス状のSO₂・HClと水蒸気、NH₃はろ過だけでは止めにくい成分です。吸収剤を併用すれば酸性ガスもかなり低減できます。これらには触媒組成と運転温度の管理で対応する必要があります。
- US EPA, 「Air Pollution Control Technology Fact Sheet: Selective Catalytic Reduction (SCR)」 (EPA-452/F-03-032), 2003.
- Zhu, Y. ほか, 「Ammonium-Salt Formation and Catalyst Deactivation in the SCR System for a Marine Diesel Engine」, Catalysts 9(1), 21, 2019.
- Lisi, L., Cimino, S., 「Poisoning of SCR Catalysts by Alkali and Alkaline Earth Metals」, Catalysts 10(12), 1475, 2020.

