SNCRとSCRの違いとは?
韓国の排出賦課金・総量管理の背景から、原理、限界、選定手順まで
01 · REGULATION
なぜ脱硝が必要なのか?
脱硝が必要なのは、韓国ではNOx排出が濃度・総量・賦課金の3制度で同時に管理され、排出量が多いほどコストが増えるためです。NOxは燃焼で生じるNOとNO₂などの総称で、排ガス中では大部分がNOです。微小粒子状物質とオゾンの前駆物質として規制されます。
| 制度 | 何を制限するか | 事業場への影響 |
|---|---|---|
| 排出許容基準(濃度) | 排出口ごとの汚染物質濃度の上限。施設の種類、規模、設置時期で基準が異なります。 | 基準を超えると超過賦課金が課されます。[1] |
| 圏域別総量管理 | 「大気管理圏域の大気環境改善に関する特別法」により、総量管理事業場に年度別の排出許容総量を割り当てます。 | 総量を超えると総量超過課徴金が課され、翌年の割当量が減ります。総量管理対象の汚染物質は基本賦課金が免除です。[2][3] |
| 排出賦課金 | NOx 1kg当たり単価2,130ウォン(超過賦課金の算定基準)に超過率・地域係数を掛けて算定します。[1] | 排出量が多いほどコスト増。単価ベースで1トン約213万ウォン規模です。 |
韓国の総量管理は首都圏で先行導入され、2020年に中部圏・南部圏・東南圏の3圏域へ拡大、当時799事業場に年度別の排出許容総量が割り当てられました。[2]瞬間濃度だけでなく年間排出量そのものを減らす必要があるということです。賦課対象量と係数は事業場で異なるため、上記単価は規模感の目安です。
韓国の濃度基準は「大気環境保全法施行規則」別表8に施設の種類・規模別に定められています。現行の別表8で廃水・廃棄物・廃ガス焼却処理施設のNOx基準は、焼却能力が時間当たり2トン以上で70ppm、2トン未満で90ppm(NO₂換算、標準酸素濃度12%補正)です。[4]NOxの発生源と、NO₂・酸素濃度で換算する理由は窒素酸化物(NOx)はどこで生じるのか?で解説しています。
02 · REACTION
脱硝とはどのような反応なのか?
脱硝(DeNOx)は、アンモニアや尿素などの還元剤でNOxを窒素(N₂)と水(H₂O)に変える処理です。基本の反応式は4NO + 4NH₃ + O₂ → 4N₂ + 6H₂Oです。
図1. 排ガス中のNOx(代表的にはNO、NO₂)がアンモニア(NH₃)と出会い、窒素(N₂)と水(H₂O)に変わる過程。赤は窒素、濃い青は酸素、水色は水素で、反応式はNO基準で係数と酸素まで示しています。
出典:株式会社マイクロワン自社技術資料に基づく概念図
触媒は、自らは消費されずに反応の活性化エネルギーの障壁を下げる物質です。同じ反応を低温で起こせるため、SCRはSNCRよりずっと低い温度で高効率を出せます。
亜酸化窒素(N₂O)はNOxとは別に温室効果ガスとして管理されます。尿素を使うSNCRでNOxの一部がN₂Oに変わり得ることもEPAの資料にあります。[5]
03 · COMPARISON
SNCRとSCRは原理・温度・効率がどう違うのか?
SNCRは約870~1,100℃の高温域で、一般的な現場効率は30~50%程度です。[5]SCRは約250~427℃で70~90%を見込む方式です。[6]以下は米国EPAの資料に基づく数値で、設備、燃料、負荷で変わります。
図2. 上のSNCRは高温域で還元剤とNOxが直接反応し、下のSCRは還元剤を混ぜた排ガスが触媒層で反応します。SNCR側に残るNOxは効率差の概念表現で、実際の効率は下の表を参照。
出典:株式会社マイクロワン自社技術資料に基づく概念図
| 比較項目 | SNCR(無触媒脱硝) | SCR(触媒脱硝) |
|---|---|---|
| 構造(模式図) | ||
| 触媒 | 使用しません。 | 触媒層を使用します。 |
| 反応位置 | 焼却炉・ボイラ等の高温域に還元剤を直接噴霧します。 | 別置の反応器の触媒層で反応します。 |
| 運転温度 | アンモニア約870~1,100℃、尿素約900~1,150℃[5] | 約250~427℃(触媒と排ガス組成によって異なる)[6] |
| 脱硝効率 | 一般的な現場適用で30~50%、実証試験では最大75%の報告[5] | 70~90%。90%以上を設計目標とする場合もあります。[6][7] |
| リークアンモニア | 約5~10ppm程度に制御される事例[5] | 米国の許容値は通常2~10ppmで、適切な設計なら2ppm前後以下を維持します。[6][7] |
| 設置条件 | 反応器なしで既設の燃焼設備に注入ノズルを設置します。 | 反応器の設置スペースが必要で、配置により再加熱が必要です。[7] |
| 投資・運用 | 一般に初期投資は低めで、還元剤量の管理が鍵です。 | 投資が大きく、触媒の交換・維持費が継続的にかかります。 |
| 弱点 | 温度ウィンドウが狭く、負荷変動に敏感です。[5] | ばいじんと被毒物質で触媒活性が低下します。[6] |
出典:株式会社マイクロワン自社技術資料に基づく・構造図は概念図で、実際の構造・寸法とは異なります。
尿素水とアンモニア水は何が違うのか?
還元剤の選定を左右するのは、価格より取り扱い、噴霧条件、副生成物の管理です。EPAの資料では、アンモニアは一般に尿素より安価でも、大型ボイラでは取り扱いが安全で噴霧の拡散に優れる尿素が多く使われます。[5]アンモニア水は通常29%前後の水溶液で輸送・貯蔵し、尿素は50%水溶液が一般的です。[5][7]
尿素を使うSNCRではNOxの一部がN₂Oに変わることがあり、[5]SCRでは尿素を注入前にアンモニアへ転換し、尿素システムの資本費が最も高いとされます。[7]適する還元剤は反応温度、貯蔵・安全条件、リークアンモニアの許容値で決めます。
04 · LIMITS
それぞれの方式は現場のどこで限界に突き当たるのか?
SNCRは効率を上げるとリークアンモニアが増える点で、SCRはスペースとばいじん条件で限界に当たります。
SNCR:効率を上げようと還元剤を増やすとリークアンモニアが増える
SNCRは温度ウィンドウが狭い方式です。EPAの資料は、ボイラ内では位置でガス温度が大きく異なり、低負荷では温度も下がるとしています。[5]注入位置が最適温度域を外れると効率が下がります。
このとき還元剤を過剰に噴霧すると、薬品費が増え、未反応アンモニアが排出される悪循環に陥ります。EPAの資料では、アンモニアは5ppm以上で臭気、25ppm以上で健康懸念があります。[5]アンモニアと硫黄分の塩が設備を閉塞・汚損させる点は、SCRの資料でも扱われています。[6]
いいえ。一定水準を超えるとNOx低減の上積みは小さく、リークアンモニアだけが増え得ます。まず注入位置、ノズル角度、負荷・酸素濃度連動の注入量制御を見直し、必要ならCFDで温度分布を確かめます。
SCR:スペース、投資、触媒の劣化
SCRは反応時間の確保で反応器が大きく、触媒量が増えると圧力損失と維持負担も増えます。スペース不足では高所設置やダクト増加で構造が複雑になり、工事の難易度とコストが上がります。総投資額は敷地、ダクト、再加熱、付帯設備で大きく変わるため、事業場ごとに見積もって比較します。
排ガス流入還元剤噴霧触媒層(多段)処理ガス排出
1NOx・NH₃流入2触媒表面で反応3N₂・H₂O排出図3. 左は還元剤を噴霧した排ガスが触媒層を上から下へ通るSCR反応器、右の正方形は触媒ブロック1つの流路の拡大図。触媒の段数、大きさ、セル配列は現場ごとに異なります。
出典:株式会社マイクロワン自社技術資料に基づく・AIを活用した概念図
排ガスは反応器上部から入り、還元剤と混ざって触媒層を上から下へ通ります。ハニカム触媒には細長いチャネルが密に並び、壁面沿いに流れる間にNOxと還元剤が窒素と水に変わります。同じ容積で反応表面積を広く取る構造です。
触媒は使用中に劣化します。EPAの資料は、カリウム・ナトリウム等のアルカリ金属、ヒ素、塩素、フッ素、鉛などを被毒物質に挙げ、[7]ばいじんが触媒表面を覆い・閉塞させ、粒子の衝突と速いガス流が触媒を摩耗させるとしています。[7]活性が下がるとNOx除去率は低下し、リークアンモニアは増えます。[6]
設置位置によって長所と短所が入れ替わる
EPAの資料はSCRの配置を前段(high-dust)、中間(low-dust)、後段(tail-end)に分けています。[7]前段配置は集じん設備の前に反応器を置き、スペースが十分なら最も経済的で単純な設計とされますが、ばいじんと被毒物質が触媒に直接触れます。全処理設備の後ろの後段配置は、触媒は清浄なガスを受けますが再加熱が必要で、運転費が大きく増えます。[7]つまり触媒を守れば再加熱コストが、再加熱を避ければ触媒劣化の負担が生じるトレードオフです。
05 · COMBINATION
規制が厳しい条件では、2つの方式をどう組み合わせるのか?
厳しい基準では高効率のSCRが使われますが、集じん設備と別設備で直列運用するのが一般的です。まずばいじんを除き、反応温度に合わせてSCR反応器を通します。焼却炉の排ガス処理系統全体の順序は焼却炉の排ガス処理設備はどの順序で構成されるのか?で整理しています。
集じんはバグフィルターや電気集じん機が担います。両設備の違いは電気集じん機(ESP)とバグフィルターの違いとは?で解説しています。ごみ焼却炉のように燃焼域のSNCRで一次低減し、不足分を後段のSCRで精密に減らす組み合わせも使われます。構成は目標濃度、排ガス温度、敷地で決まります。
06 · SELECTION
選定・点検はどのような順序で行うのか?
目標効率から温度、スペース、ばいじん条件の順に絞り込むと、選択肢が速く減ります。
- 目標濃度と必要効率:現在の排出濃度と適用基準(濃度・総量)から必要な低減率を逆算します。30~50%以内ならSNCRも候補、それ以上ならSCRか両方式の併用を検討します。
- 排ガスの温度分布:注入位置の温度がSNCRの温度ウィンドウに入るか、SCRの反応温度まで再加熱が必要かを実測します。負荷変動域も見ます。
- 設置スペースとダクト:反応器、再加熱設備、還元剤の貯蔵・注入設備の敷地とアクセス性を確認します。
- ばいじんと被毒物質:アルカリ金属、塩素、硫黄分とばいじん濃度から、触媒の配置を決めます。
- 還元剤とリークアンモニアの許容値:尿素水とアンモニア水から貯蔵・安全条件に合うほうを選び、許容するリークアンモニアを決めます。
- コスト比較:投資費と運転費(還元剤、再加熱、触媒交換)を、賦課金・総量の負担と同期間で比較します。
- 運転中の点検:リークアンモニア、圧力損失、効率の変化を定期確認し、悪化したら注入位置、触媒の状態、温度から点検します。
平均負荷時の温度だけで決めることです。起動・停止時と低負荷時の温度まで確認します。
FAQ
よくある質問
SNCRの効率がSCRより低いのはなぜですか?
触媒なしで高温だけで反応させるためです。反応温度域が狭く、還元剤とNOxの混合で効率が大きく変わります。EPAの資料では一般的な現場で30~50%程度です。[5]
SCRにはなぜ反応器と再加熱が必要なのですか?
触媒の作動温度に合わせ、反応時間を確保するためです。集じん設備の後ろでは排ガスが冷えて再加熱が必要になり、前ではばいじんと被毒物質にさらされます。[7]
尿素水とアンモニア水のどちらを使うべきですか?
現場条件によります。アンモニアは一般に尿素より安価ですが、安全性と噴霧の拡散性から大型ボイラでは尿素が多く使われます。貯蔵・安全条件と反応温度で決めます。[5]
韓国の総量管理対象事業場は基本賦課金が免除されますか?
はい。総量管理対象の汚染物質は基本賦課金が免除です。ただし許容総量を超えると総量超過課徴金が課され、翌年の割当量が減ります。[3]
SNCRとSCRは併用できますか?
はい。燃焼域のSNCRで一次低減し、後段のSCRで残りのNOxを減らす組み合わせを採用できます。投資費・運転費は単独より増えるため、目標濃度に合わせて比較します。
- 韓国 国家法令情報センター「大気環境保全法施行令」別表4「超過賦課金の算定基準」(韓国語)
- ソウル新聞「事業場の大気汚染物質総量管理、5年間で38.8%削減」、2020.10.20.(韓国語)
- イートゥデイ「大気汚染物質の総量制を全国に拡大…799事業場に適用」、2020.10.20.(韓国語)
- 韓国 国家法令情報センター「大気環境保全法施行規則」別表8「大気汚染物質の排出許容基準」(韓国語)
- US EPA, 「Air Pollution Control Cost Manual, Section 4.2 Chapter 1 Selective Noncatalytic Reduction」, 2002
- US EPA, 「Air Pollution Control Technology Fact Sheet: Selective Catalytic Reduction (SCR)」
- US EPA, 「Air Pollution Control Cost Manual 7th Edition, Chapter 2 Selective Catalytic Reduction」, 2019

