工程に合ったフィルターバッグの材質はどう選ぶのか?
耐熱性・耐薬品性から、基材とメンブレンの違い、業種別の検討基準まで
01 · FILTER BAG STRUCTURE
フィルターバッグは何で構成されているのか?
フィルターバッグは、バグフィルター(ろ過式集じん機)の内部に取り付け、排ガス中のばいじんを捕集する交換式のろ過部品です。多数のフィルターバッグを装着した設備をバグハウスと呼び、フィルターバッグは運転中にダストの捕集と払い落としを繰り返します。
ろ材を理解するうえでは、基材の種類とメンブレンのラミネートの有無を区別する必要があります。基材はフィルターバッグの本体を構成する繊維層で、耐熱性・耐薬品性と機械的強度を左右します。不織布(ニードルフェルト)や織布として製作され、補強用の基布や表面処理が併用されることもあります。
ePTFEメンブレンは、基材の表面にラミネート(貼り合わせ)する微多孔膜です。したがって、PTFE基材のフィルターバッグと、別の材質の基材にePTFEメンブレンをラミネートしたフィルターバッグは、異なる仕様です。
現場や見積書ではどのような名称で呼ばれるのか?
同じ材質でも、略称や繊維の商標名で呼ばれることがよくあります。見積書や仕様書を比較する際は、以下の名称が同じ材質を指しているかをまず確認してください。
| 材質 | 略称・別名 |
|---|---|
| ポリエステル | PE、PET |
| ポリプロピレン | PP |
| アクリル | PAN、ホモポリマーアクリル |
| メタ系アラミド | m-アラミド、Nomex®(ノーメックス) |
| PPS | ポリフェニレンサルファイド |
| ポリイミド | PI, P84® |
| PTFE | ポリテトラフルオロエチレン、テフロン(Teflon®) |
| ガラス繊維 | グラス、Glass Fiber、FG |
Nomex®・P84®・Teflon®は、各所有者の登録商標です。
02 · MATERIAL COMPARISON
主要な材質にはどのような特性と注意点があるのか?
耐熱性が高くても酸性ガスに弱い場合があり、耐酸性に優れていても酸化性雰囲気や繰り返しの摩擦について検討が必要な場合があります。使用可能温度とあわせて、化学的・機械的な限界も確認する必要があります。
主要なフィルターバッグ材質の特性と選定時の検討事項
| 材質 | 使用温度* | 耐酸性・耐アルカリ性・注意条件 | 摩耗・機械的な検討事項 |
|---|---|---|---|
| PTFE | 連続 232~260°C 瞬間最高 260~280°C | 耐酸性 最良・耐アルカリ性 最良 高湿・強酸性のガスにも適する | ダスト摩耗、支持構造、払い落とし条件を確認 |
| PPS | 連続 190°C 瞬間最高 200~218°C | 耐酸性 最良・耐アルカリ性 非常に良好 酸素・NO₂が多い条件に弱い | 高濃度・摩耗性ダストでは、ろ材の構造と運転条件をあわせて検討 |
| メタ系アラミド (Nomex®) | 連続 190~200°C 瞬間最高 218~240°C | 耐酸性 良好・耐アルカリ性 良好 強酸と高温・高湿が重なる条件は要注意 | 繰り返しの払い落としと接触摩擦を考慮して選定 |
| ポリイミド (P84) | 連続 216~260°C 瞬間最高 232~260°C | 耐酸性 非常に良好・耐アルカリ性 普通 高温のアルカリ条件に弱い | 多葉形断面の繊維で表面積が大きく、微粒子の捕集に有利[1] |
| ガラス繊維 (Glass Fiber) | 連続 260°C 瞬間最高 288°C | 耐酸性 良好・耐アルカリ性 普通 フッ化水素(HF)に弱く、表面処理により適合性を確認 | 屈曲摩耗に弱いため、曲げ・衝撃・摩擦を考慮した設計と取り扱いが必要 |
| ポリエステル (PE) | 連続 130~150°C 瞬間最高 150~180°C | 耐酸性 良好・耐アルカリ性 普通 高温・高湿で加水分解 | 経済性とあわせて、ダスト摩耗と表面処理を検討 |
材質の画像は理解を助けるための生成画像であり、実際の製品の色・質感・厚さを保証するものでも、材質を識別する基準でもありません。
* 温度は乾きガス基準で、ろ布の仕様によって異なります。通常の運転温度は連続使用温度内に、起動時や異常運転時の最高温度は瞬間最高温度内に収まる必要があります。評価は 最良 > 非常に良好 > 良好 > 普通 の順です。[2] PP・アクリルを加えた8材質の比較表は、DuraFill™ フィルターバッグ材質選定ガイドでご覧いただけます。画面が小さい場合は、表を左右にスクロールしてご覧ください。
図7. 材質別の連続使用温度の上限と瞬間最高温度の上限です。乾きガス基準で、ろ布の仕様によって異なります。P84は連続使用温度と瞬間最高温度の上限がいずれも260°Cです。緑色で示したPTFEの優位性については、下記の説明をご参照ください。
出典:株式会社マイクロワン DuraFill™ フィルターバッグ材質選定ガイド
耐加水分解性とは、高温の水分にさらされたときに材質が化学的に分解する現象への抵抗性を指します。PPSとPTFEは耐加水分解性に優れる一方、ポリエステルとアラミドは適用条件に注意が必要です。PPSは耐酸性とは別に、耐酸化性も確認する必要があります。[3]
耐摩耗性は、材質名だけで優劣を決めることが困難です。繊維層の構造、補強材、表面処理に加え、ダストの流入速度や方向、フィルターバッグとリテーナー(支持具)の接触状態も損傷に影響します。
03 · ePTFE MEMBRANE
ePTFEメンブレンをラミネートすると何が変わるのか?
基材の選定が排ガス環境に耐えるための判断だとすれば、メンブレンをラミネートするかどうかは、ダストをどこで捕集し、どのように払い落とすかについての判断です。ePTFEメンブレンは、ダストの基材内部への侵入を抑え、表面で捕集させる表面ろ過層です。表面ろ過と深層ろ過の違いや、運転時間に伴う差圧の変化については、前回のコラム「深層ろ過と表面ろ過の違いとは?」で詳しく解説しています。
構造を理解するための概念図であり、実際の厚さ・孔径・色を示すものではありません。
ポリエステル基材にePTFEメンブレンをラミネートした製品でも、ポリエステルが耐えられる運転条件かどうかを検討する必要があります。また、メンブレンの有無だけで差圧や寿命が決まるわけでもありません。ダストの付着性、水分の凝縮、ろ過速度、払い落とし条件がそろって適合している必要があります。
04 · INDUSTRY CONDITIONS
業種ごとの排ガス条件に応じて、何を優先的に検討すべきか?
同じ業種でも、発生工程や集じん位置によって温度・ダスト性状・ガス組成は異なります。業種は検討の出発点であり、最終的な材質は対象工程の運転データに基づいて選定する必要があります。
業種の画像は理解を助けるための生成画像であり、特定の事業所や納入実績を示すものではありません。
工程別に主に検討する材質は何か?
下表は、株式会社マイクロワンの材質ガイドと海外のフィルター・繊維メーカーの資料で共通して挙げられている材質を、工程別に整理したものです。同じ工程でも集じん位置や運転条件によって異なるため、検討の出発点としてご活用ください。
| 工程 | 排ガス・ダストの特徴 | 主に検討する材質 |
|---|---|---|
| ごみ焼却炉(熱回収施設) | 酸性ガス(HCl・SOx)、温度変動、付着性ダスト | PTFE、P84/微粒子の基準が厳しい場合はePTFEメンブレン[1][4][5][6][7] |
| セメントキルン | 高温、高濃度の微細ダスト、アルカリ成分 | P84、ガラス繊維[1][4][5][6][7] |
| セメントクリンカクーラー・ミル | 高温または常温の摩耗性ダスト | P84、メタ系アラミド、ポリエステル(混紡を含む)[1][4][6] |
| 石炭・バイオマスボイラー(発電) | SOx、水分、フライアッシュ | PPS、P84、ガラス繊維[1][4][5][6][7] |
| 鉄鋼・金属製錬 | 高温の排ガス、微細な金属ダスト | メタ系アラミド、P84、PTFE(非鉄金属)[1][6] |
| アスファルトプラント | 高温・乾燥、摩耗性の骨材ダスト | メタ系アラミド[4][5][6] |
| カーボンブラック | 高温、微細ダスト | ガラス繊維、P84[4][6] |
| 化学工程 | 工程ごとに異なる酸・アルカリ・溶剤成分 | PTFE、ポリプロピレン(低温)[4][6] |
| 食品・飼料・木材などの一般集じん | 常温~中温、乾燥ダスト | ポリエステル、ポリプロピレン(湿ったダスト)[4][5] |
| スプレードライヤー | 低温の湿ったガス | アクリル[4] |
高温と酸性ガスが併存する工程では、PTFEを検討できます。PPSは酸性ガスや水分のある条件で検討できますが、温度と酸化性雰囲気もあわせて確認する必要があります。メタ系アラミド(Nomex®)は高温ダストの処理に用いられますが、強酸性の条件や高温・高湿環境では追加の検討が必要です。P84はセメントキルンのように高温で微細ダストが多い工程に使われますが、高温のアルカリ条件は避ける必要があります。
ガラス繊維は高温工程の選択肢になり得ますが、機械的損傷と化学的な暴露条件を確認する必要があります。ポリエステルは、比較的低温の乾燥ダストの処理で経済的な選択肢となり得ます。化学工程はガス組成が工程ごとに異なるため、個々の成分に対する耐薬品性をまず確認する必要があります。
05 · FAILURE & DIFFERENTIAL PRESSURE
仕様が合わないと、なぜ早期破損や差圧上昇が起こるのか?
フィルターバッグは、寸法だけでなく運転条件にも適合していなければならない部品です。既存品と長さ・直径が同じでも、基材、メンブレン、縫製構造や表面処理が異なれば、運転結果が変わることがあります。
材質が耐えきれない負荷は、早期破損につながることがあります
許容範囲を超えた温度、不適合なガス組成、繰り返しの接触摩擦は、損傷の原因となり得ます。材質が劣化した状態で払い落としが繰り返されると、損傷が拡大するおそれもあります。
ダストが堆積して除去されないと、通気抵抗が大きくなります
付着性ダストが固着したり、水分の凝縮でダストケーキ(粉じん層)が固まったり、内部に侵入したダストが十分に除去されなかったりすると、差圧が上昇することがあります。ただし、処理風量の増加、ろ過面積の不足、払い落とし不良といった設備・運転条件もあわせて確認する必要があります。
| 発生する症状 | あわせて確認する項目 |
|---|---|
| 早期の破れ・穴あき | 温度履歴、化学的劣化、リテーナーとの接触、ダストの衝突 |
| 払い落とし後も差圧が高い | 内部の目詰まり、付着性ダスト、凝縮、払い落とし条件 |
| 交換後、想定より差圧が高い | ろ材の通気特性、処理風量、ろ過面積、取付状態 |
06 · SELECTION CHECKLIST
材質はどのような手順で選ぶのか?
通常運転時の値に加え、起動・停止時や異常運転時の条件も伝えることで、材質選定の精度を高められます。
- 温度:通常運転温度、瞬間最高温度、温度変動とその継続時間
- ガス組成:酸性ガス、酸素、水分など、材質に影響する成分
- ダスト特性:濃度、粒度、摩耗性、付着性、吸湿性
- 設備条件:実処理風量、ろ過面積、ろ過速度、払い落とし方式
- 既存の運転履歴:差圧の推移、損傷箇所、交換理由、凝縮の有無
- 1STEP 01運転温度通常の温度が連続使用温度内に、起動時・異常運転時の最高温度が瞬間最高温度内に収まる材質だけを残します。→ グラフで候補を絞り込む
- 2STEP 02酸性ガス・水分SOx・HClが多く、露点付近で運転する場合は、耐酸性の高い材質を選びます。→ PPS · P84 · PTFE
- 3STEP 03酸素・アルカリ酸素が多い場合はPPSを、高温のアルカリ条件ではP84を避けます。→ PPS・P84の除外を確認
- 4STEP 04微粒子・NOx排出基準が厳しい場合はePTFEメンブレンを、NOxも低減する必要がある場合は触媒フィルターバッグを検討します。→ ePTFEメンブレン・CataFill™
出典:株式会社マイクロワン DuraFill™ フィルターバッグ材質選定ガイド
これらの情報をもとに、基材とメンブレン、表面処理、縫製・取付構造をあわせて決める必要があります。適切なフィルターバッグとは、対象工程の熱的・化学的・機械的条件に耐えながら、必要なダスト捕集性能と払い落とし性能を維持できる仕様です。
FAQ
よくある質問
最も耐熱性の高い材質を選べば安心ですか?
耐熱性だけで適合性を判断することはできません。酸性ガスと水分、酸化条件、ダスト摩耗まであわせて検討する必要があります。通常運転温度だけでなく、瞬間最高温度とその暴露時間も確認が必要です。
ePTFEメンブレンを使ったフィルターバッグは、すべてPTFEフィルターバッグですか?
ePTFEメンブレンは表面層であり、基材はPTFE・PPS・P84・メタ系アラミド・ガラス繊維・ポリエステルなど製品によって異なります。仕様書には、基材の材質とメンブレンのラミネートの有無をそれぞれ明記するのが正確です。
既存のフィルターバッグとサイズが同じなら、交換しても問題ありませんか?
寸法以外にも、材質、使用温度、耐薬品性、通気特性、払い落とし方式、取付構造が適合している必要があります。交換前に、既存品の仕様と実際の運転条件をあわせて確認してください。
- Evonik, P84® Fibres brochure(多葉形断面、セメント・廃棄物エネルギー化・石炭ボイラー・鉄鋼への適用)。
- 株式会社マイクロワン、DuraFill™ フィルターバッグ材質選定ガイド(韓国語)(材質別の連続使用温度・瞬間最高温度・耐酸性・耐アルカリ性)。
- BWF Envirotec, Filter Media for Industrial Filters(繊維別の耐加水分解性・耐酸化性の比較)。
- 株式会社マイクロワン、DuraFill™ フィルターバッグ材質選定ガイド「主な用途」(韓国語)。
- CPE Filters, Filter Media(材質別の適用分野)。
- Aokai, PTFE vs PPS vs Aramid vs P84 Filter Bags(材質別の適用業種)。
- Albarrie, P84 Polyimide Technical Felts(適用分野)。






